「作文、何書けばいいか分からん……」
原稿用紙を前に固まるわが子。「水族館行ったやん!イルカ見たやん!」と助け船を出しても、「書くことない」の一点張り……。横で見ているこっちまでイライラしてしまいますよね。
でも、元国語教師として言わせてください。子どもがフリーズするのはやる気がないからではなく、頭の中の「作文の材料」が散らかっているだけなんです。
材料が整わないまま「早く書きなさい!」と言うのは、冷蔵庫の中身を見ずに「すぐ料理作って!」と無茶振りするようなもの。
それだけで「書くことない」が「それ書きたい!」に変わることがあります。
この記事では、子どもの中にある作文の材料を引き出す「プレ質問」を、元国語教師の視点から具体的にご紹介します。
なぜ子どもは「何を書けばいいか分からない」とフリーズするのか?
「今日あったことを書けばいいだけなのに、なんでそんなに手が止まるの?」
大人からすると、そう思ってしまいますよね。
実は、書くことがないわけではありません
頭の中にある材料を、「選ぶ・思い出す・言葉にする」のどこかで止まっていることが多いんです。
特にフリーズしやすい理由は、大きく3つあります。
① 「一番楽しかったこと」を探そうとして迷子になっている
親や先生から「一番楽しかったことを書きましょう」と言われると、真面目な子ほど考え込んでしまいます。
たとえば、水族館に行った日。
- イルカショーもすごかった
- ペンギンもかわいかった
- アイスもおいしかった
- お土産を選ぶのも楽しかった
子どもの中には、思い出がちゃんといくつも残っています。
でも、その中から急に、
と言われると、「えっと……どれやろ?」と、それだけで止まってしまうことがあります。
つまり、作文が書けないのではなく、書く前の「テーマ選び」で迷子になっているんですね。
「一番びっくりしたことは?」
「一番笑ったのは?」
「もう一回やりたいのは?」
「実はちょっとイヤだったことは?」
「楽しかった」以外の切り口にすると、意外なほどスッと答えを出してくれます。
② 頭の中で「動画」ではなく「写真1枚」しか再生できていない
「水族館のこと書いてごらん」と言うと、
の2行で終わってしまうこと、ありますよね。
これは、「水族館に行った」という大ざっぱな記憶しか頭に浮かんでいない状態です。
頭の中にあるのは…
「水族館に行った」
→ いわばアルバムの表紙だけが浮かんでいる状態
でも、作文を書くときに必要なのは、予定表のような記憶より、その場面の「動画」です。
- イルカがジャンプして、水しぶきがバシャッと飛んできた瞬間
- クラゲが青い光の中でふわふわ浮いていたところ
こうした小さな場面が思い出せると、一気に書けることが増えていきます。
こう聞いてあげるだけでも、「そういえば水が顔にかかった!」と、目の前の映像が具体的になり、書く材料が一気に増えていきます。
③ 感じた気持ちに合う「言葉の引き出し」が足りない
子どもの作文で、
「すごかったです」
「おもしろかったです」
が連発されると、「また同じ感想!?」と思ってしまいますよね。
でも、子どもは適当に書いているわけではありません。
ということも多いんです。
たとえば同じ「ドキドキ」でも、
・緊張してドキドキした
・怖くてドキドキした
・楽しみでワクワクしてドキドキした
では、気持ちはそれぞれ違います。
そこで、
「びっくりした?」
「悔しかった?」
「ワクワクした?」
と、気持ちを表す言葉の選択肢をそっと並べてあげるのがコツです。
つまり、「書くことがない」からフリーズしているわけではありません。
「どれを選べばいいか分からない」
「場面がぼやけている」
「気持ちに合う言葉が見つからない」
というSOSのサインなのです。
原稿用紙に向かう前に!子どもの言葉を引き出す「プレ質問」5選
では、書き始める前にどんな声をかけてあげればいいのでしょうか?
大切なのは、「作文を書かせるための質問」ではなく、親子で思い出話をする感覚で記憶を探すこと。
「そういえば、こんなことあったな!」を一緒に探すだけで十分です。
ここからは、家庭でも使いやすい5つの「プレ質問」をご紹介します。
質問1:「一番楽しかったこと」じゃなくて「一番びっくりしたこと」は?
ハードルの高い「一番楽しかったこと」を聞くのを、一度やめてみましょう。
×「一番楽しかったことは?」
〇「今日、『えっ!』ってなったことあった?」
たとえば動物園なら、
こんな答えでも大歓迎です。
むしろ、「動物園に行って楽しかったです」より、圧倒的にその子らしい生き生きとした作文になります。
楽しかったことにこだわらず、びっくり・笑った・悔しい・変だったなど、感情の入り口を変えてみてくださいね。
質問2:「そのとき、目の前には何が見えてた?」
出来事が決まったら、カメラのズームレンズを向けるように質問します。
×「どんな感じだった?」
〇「そのとき、目の前には何が見えてた?」
イルカショーなら、
「水しぶき」
「前のおじさん」
「ボール」
など、場面のパーツが出てきます。
そこから「前のおじさん、どうなってた?」と少しだけ広げれば、「びしょ濡れになってた!」といった目の前の景色を思い出させるだけで、文章はぐっと具体的になります。
質問3:「もしタイムマシンで戻れるなら、どこからやり直したい?」
これは、子どもがかなり食いついてくれる変化球の質問です。
すると、
「もう一回あのアトラクションに乗りたい!」
「最後に〇〇ちゃんにバイバイ言えなかったから、そこに戻りたい」
など、その子が強く覚えている場面や、本音が出てきます。
「もう一度戻りたい場面」は、その子が特に心を動かされた場面。そこが、作文の中心(一番書きたいこと)になります。
質問4:「そのとき、心の中で何て叫んだ?」
「出来事は書けているけど、感想が全部『楽しかった』になる……」というときにおすすめです。
×「どんな気持ちだった?」
〇「そのとき、心の中で何て叫んだ?」
たとえば魚が釣れた瞬間なら、
「絶対逃がさないぞ!」
かもしれません。
魚がかかったとき、ぼくは心の中で「絶対に逃がさないぞ」と思いました。
こんなふうに「心の中のセリフ」を入れるだけで、一気にその場面がリアルに動き出します。
質問5:「これを知らない〇〇ちゃん(祖父母や友)に教えてあげるなら、なんて説明する?」
親が相手だと、「知ってるでしょ?」と説明を省いてしまいがちです。
と聞くと、
と、自然に話し始めます。
作文だからと身構えず、「知らない人に出来事を教えてあげる」くらいの気持ちで話してもらうと、「どこで・誰と・何をした」という必要な情報がスッと出てきますよ。
まずは「作文」ではなく「おしゃべり」から始めてみてくださいね!
実際に「プレ質問」すると、作文はどう変わる?
「質問するだけで、本当にそんなに変わるの?」と思いますよね。
ちょっとこちらのビフォーアフターを見てみてください。
Before
日曜日にプールに行きました。
すべり台のプールをしました。
楽しかったです。
よくある「〜に行きました。〜しました。楽しかったです。」の3段活用ですね。
間違いではありませんが、なんだか報告書のようで、これだけでは、その子がどんな体験をしたのかまでは見えてきません。
ここで、いったん原稿用紙を置いて「プレ質問」をしてみます!
プレ質問の会話(ほんの1分)
親「今日、一番びっくりしたことは何?」
子「すべり台が思ってたよりめっちゃ速かったこと!」
親「滑ってるとき、何が見えてた?」
子「目の前の水!あと、パパが下で笑って手振ってた」
親「そのとき、心の中で何て叫んでた?」
子「『うわ、速すぎー!』って思ってた!」
After
日曜日にプールに行きました。
一番びっくりしたのは、大きなすべり台です。
思っていたよりもすごく速くて、滑っているときに心の中で「速すぎー!」と思いました。
下を見ると、パパが笑って待っていました。
次に行ったら、絶対にもう一度滑りたいです。
最初の作文より、すべり台のスピード感や、下で待っているパパの姿、子どものワクワクした表情まで目に浮かぶような作文になりましたよね。
でも、大事なのはここ。
親が難しい言葉を教えたり、文章を作ったわけではありません。
子どもの頭の中にあった思い出(材料)を、プレ質問で会話として引き出し、そのまま並べ替えただけ。
私は作文指導で、ここがとても大事だと思っています。
まずは、子どもの中にある言葉を外に出してあげる。それだけで作文はぐっと書きやすくなります。
プレ質問をするときに、親がやってはいけない3つのNG
せっかくのプレ質問も、聞き方によっては子どもが話しづらくなってしまいます。
特に気をつけたい3つのNGをご紹介します。
NG1:親の「書いてほしい答え」に誘導する
旅行の作文で、ついついやってしまうのがこちら。
「海がきれいだったよね?」
「イルカショーが一番楽しかったでしょ?」
「家族みんなで行けてうれしかったよね?」
でも、子どもの本音が、
だったとしても、それで100点満点です!
大人からすると「え、そこ!?」と思いますよね。
でも、親が書いてほしい感動的な思い出より、子ども自身が本当に覚えていることのほうが、圧倒的に書きやすく、魅力的な作文になります。
NG2:聞き取りながら「表現がおかしい」「漢字が…」と指摘する
子どもが、
とノリノリで話しているときに、
「『バーン』じゃなくて、もっと作文らしい言葉ない?」
「『見た』は漢字で書きなさい」
と途中で口をはさむのはNGです。
これをやられた瞬間、子どもの頭は「思い出して楽しむモード」から「怒られないように正解を探すモード」に切り替わってフリーズします。
作文づくりの3ステップ
① 材料を出す
② 並べる
③ 整える
プレ質問は、あくまで「①材料を出す」時間。
漢字や言葉づかいを直すのは、最後の最後にまわしましょう!
NG3:取調室のように質問を畳みかける
「誰と行った?何時?何した?どうだった?なんで?それから?」
と矢継ぎ早に聞かれると、子どもは取調べを受けている気分になって疲れてしまいます。
質問は1つでOK。
子どもが話し始めたら、「え、そんなことあったん!」「それおもしろそう!」と相槌を打ってただ話を聞いてあげること。
おやつを食べながら、お風呂に入りながら、雑談の延長くらいでゆるーく聞き出してあげてくださいね。
【場面別】すぐ使える!プレ質問と言い換え例
「プレ質問がいいのは分かったけど、毎回自分で考えるのは大変!」という方のために、よくある場面ごとにそのまま使える言い換えを一覧にまとめました!
スマホでスクショして、作文の宿題が出たときにサッと見返してみてくださいね。
子どもの「困った姿」から選ぶフレーズ
| 子どもの状況 | つい言いがちな声かけ | プレ質問 | 出てきやすい材料 |
|---|---|---|---|
| 「何を書けばいいか分からない」 | 「今日行った場所のこと書きなさい!」 | 「今日、一番『びっくり』したことは何?」 | 「急に雨が降ってきて焦ったこと!」 |
| 「〇〇に行った」で終わる | 「それだけ!?もっと詳しく!」 | 「そのとき、目の前には何が見えてた?」 | 「すごく大きな赤い観覧車が見えた!」 |
| 「楽しかった」しか出ない | 「『楽しかった』のほかに感想ないの?」 | 「そのとき、心の中で何て叫んでた?」 | 「絶対に負けたくない!と思った」 |
| 短すぎて原稿用紙が埋まらない | 「もっと長く書いて!」 | 「これを知らないお友達に教えるなら?」 | 「まずはルールの説明からしてあげないと!」 |
作文の「テーマ別」そのまま使える問いかけ一覧
大ざっぱな「どうだった?」という質問ではなく、「小さな一瞬」を切り取る質問に変えるだけで、子どもはスラスラ話し始めます。
| テーマ | 大ざっぱな質問 | 子どもが答えやすいプレ質問 |
|---|---|---|
| 遠足・校外学習 | 「何が楽しかった?」 | 「バスを降りて、最初に何が見えた?」 |
| 運動会・発表会 | 「どうだった?」 | 「一番ドキドキしたのはいつ?」 |
| お祭り・イベント | 「何して遊んだ?」 | 「一番いい匂いがした屋台はどこ?」 |
| 動物園・水族館 | 「何が一番好きだった?」 | 「一番『えっ!』ってびっくりした生き物は?」 |
| プール・海 | 「楽しかった?」 | 「一番『うわっ!』ってなった瞬間はどこ?」 |
| 家族旅行・お出かけ | 「どこが一番良かった?」 | 「タイムマシンで戻れるなら、どこに戻りたい?」 |
| ハプニング・失敗 | 「なんで失敗しちゃったの?」 | 「その瞬間、心の中で何て言った?」 |
「どうだった?」という大きな質問は、子どもにとって「何を答えればいいか分からない無茶ぶり」になりがち。
「一番びっくりしたこと」「目の前の景色」「心の中の叫び」など、小さく具体的に聞いてあげるだけで、子どもの口から面白い言葉がどんどん溢れ出してきますよ!
作文力は「特別な練習」ではなく「毎日の会話」から育つ
「作文を上手にするには、原稿用紙にたくさん書かせなきゃ!」と思っていませんか?
もちろん、書く経験も大切です。
でも、その前に大切なことがあります。それは、「自分が見たこと・感じたことを、普段の会話の中で言葉にする経験」です。
「書く」とは、
頭の中にあることを、言葉として外に出す作業です。
つまり、普段から口に出して話せないことは、絶対に紙の上に書くこともできないんです。
今日からできる!日常のプチ言葉トレ
わざわざ机に向かわなくても、毎日のなにげない会話をちょっと変えるだけで、子どもの「言葉の引き出し」はどんどん増えていきます。
学校からの帰り道
×「今日、学校どうだった?」
〇 「今日、学校で一番笑ったこと何?」
夕飯の食卓で
×「おいしい?」
〇 「この唐揚げ、どんな感じ?」
すると、
「中は熱くてやわらかい!」
なんて言葉が出てくるかもしれません。
「カリカリ」「やわらかい」「熱い」——これも、立派な作文の材料です。
日常の中で「何が見えた?」「どう感じた?」と聞かれ慣れている子は、いざ作文を書くときも自分の体験をスッと言葉にできるようになります。
「話したこと」を親がメモしてあげてもOK
最初のうちは、親がプレ質問をして、子どもが話した言葉を横でメモしてあげるのもおすすめです。
と見せてあげると、「え、しゃべっただけでいいの?」と目を丸くして喜びます。
親子の会話で「自分の頭の中を整理する楽しさ」を味わうと、やがて子どもは親が聞かなくても、頭の中で自分自身に「プレ質問」ができるようになっていきます。
この毎日の積み重ねこそが、将来の「自己表現力」や「論理的思考力」の決定的な土台になっていきますよ!
「完璧な文章」を目指さなくて大丈夫!
「作文の宿題」と聞くと、親も子もつい身構えてしまいますよね。
「せっかくなら、ちゃんとした文章を書かせたい」と思うのも親心です。
元国語教師の私だって、子どもの作文を見るとつい気になってしまいます。
「『そして』が多すぎるなぁ……」
「同じ言葉を3回も使ってる……」
「もうちょっといい表現ないかな……」
気づき始めたら、もうキリがありません(笑)。
でも、小学生の作文でまず一番大切にしたいのは
「自分の体験を、自分の言葉で書けた!」という達成感
多少文法がおかしくても、同じ言葉が続いていても、「めっちゃ」「やばかった」みたいな話し言葉が混ざっていても全然OK!
もし「やばかった」と書いてあったら、全否定するのではなく、
と一緒に掘り下げていけばいいんです。
子どもの拙い言葉や、思わず「そこ覚えてたん!?」と言いたくなる独特な視点こそ、そのときにしか書けない一生の宝物です。
まずは「プレ質問」で楽しくおしゃべりしながら、子どもの頭の中にあるワクワクする材料を、宝探しのように一緒に引き出してあげてくださいね!
まとめ:原稿用紙に向かう前の3分間で変わる
まずは原稿用紙から一旦離れて、いつもの会話の延長で「プレ質問」を1つだけ投げてみてください。
「今日、一番びっくりしたこと何?」「その時、目の前には何が見えてた?」と問いかけ、子どもが「あ!そういえばな……」と楽しそうに話し始めたら、もう作文づくりは8割成功したようなものです。
作文が書けない子に足りないのは、文章力ではなく頭の中の思い出を「書ける材料」に整理するほんの少しの時間だけ。
原稿用紙の前で30分にらめっこする前に、
まずは3分だけ、おしゃべりしてみる。
その会話が「書くことない」を
「これ書いてみたい!」に変えるきっかけになります。

コメント