「今日、幼稚園どうだった?」
「楽しかった!」
「何が楽しかった?」
「……うーーん……」
わが家でも、こんな会話がよくあります。「楽しかった」のその先を、もう少し自分の言葉で教えてほしいな……と、もどかしくなることってありますよね。
でも、語彙力を育てるのに難しいドリルや「お勉強」は必要ありません。
本当に大切なのは、毎日の会話の中にある、ちょっとした工夫です。
元国語教師で3児のママである私が日常で実践している、子どもの「伝えたい!」を引き出す会話のコツをお話ししますね。
そもそも、幼児期に語彙力が増えると何が良いの?
「語彙力」というと、どこか難しくて、「難しい言葉をたくさん知っていること」のように思えますよね。
でも、幼児期に必要なのは、ことわざや難しい単語を覚えることではありません。毎日の生活でたくさんの言葉に出会うことは、子どもの「心の安定」と「これからの学び」にもつながっています。
元国語教師としても、そして3人の親としても「やっておいてよかった」と感じている理由は2つあります。
① 自分の気持ちに「名前」がつく(心の安定と自己表現)
幼児期の子どもって、気持ちはあるのに、それを表す言葉をまだ持っていないことがあります。
おもちゃを取られて「イヤー!」と叫んだり、順番を抜かされて泣き出したり。「そんなに怒らなくても……」と大人なら思ってしまう場面でも、子どもの心の中はパニックになっています。
声かけ
「取られて悔しかったんだね」
声かけ
「急にで、びっくりしたね」
こんなふうに声をかけてあげると、子どもは「あ、このモヤモヤは『悔しい』って言うんだ」と、自分の感情と言葉を少しずつ結びつけていきます。
自分の気持ちに名前がつくと、少しずつ感情を整理しやすくなります。言葉を知ったからといってすぐに泣かなくなるわけではありませんが、「自分は今どう感じているのか」を言葉で伝えられることは、これからお友達と関わっていくうえでも大きな助けになります。
② 「あ、わかる!」が増えて想像力が広がる(読解力の土台)
知っている言葉が増えると、話や絵本の内容をより深く理解できるようになります。
たとえば、絵本に「うさぎは、しょんぼりして帰りました」と出てきたとき。
「しょんぼり」を知っていると…
「悲しかったのかな?」
「うまくいかなかったのかな?」
と、うさぎの気持ちやその場面を頭の中で思い浮かべることができます。
逆に「しょんぼり」の意味が分からなければ、その場面をイメージするのが少し難しくなってしまいますよね。
国語を教えていた頃もつくづく感じていましたが、文章を読み解く力と、知っている言葉の多さは切っても切り離せません。
「勉強」として覚えさせるのではなく、日常の中でいろいろな言葉に触れさせてあげることが、将来の国語力や学びの土台になっていきます。
元国語教師ママがやってよかった!言葉かけのコツ5選
「言葉を育てなきゃ」と身構えなくても大丈夫です。わが家で実際にやってみて、無理なく取り入れやすかったコツを5つご紹介しますね。
① 「これ」「あれ」を、具体的な言葉に言い換えてみる
子どもとの会話って、意外と指示語だけで成り立ってしまうんですよね。
「ママ、これ開けて」
「あれ取って!」
わが家でも毎日くり返されるやりとりです(笑)。もちろん、毎回「ちゃんと言葉で言いなさい!」と正す必要はありません。
ここで私が意識しているのは、大人が自然な形で具体的な言葉に置き換えて返すことです。
子:「ママ、これ開けて」
親:「このお菓子の袋を開けるのね」
子:「あれ取って!」
親:「テーブルの上の黄色いコップね」
ポイントは、テストのように「これは何でしょう?」と答えさせようとしないこと。子どもが「これ」と言ったときに、大人が具体的な言葉をかぶせて返してあげるだけで十分です。
毎日の会話の中で何度も耳にしているうちに、その言葉が少しずつ子どもの中に蓄積されていきます。
② 子どもの言葉に「+1(プラスワン)」して返す
私が特に大切にしているのが、子どもの言葉をそのまま繰り返すだけでなく、ほんの少しだけ情報を足して返すことです。勝手に「+1の言葉かけ」と呼んでいます。
子:「ワンワン!」
親:「ワンワン、走ってるね」
子:「お花!」
親:「ピンクのお花、きれいだね」
子:「今日、公園楽しかった!」
親:「楽しかったね。ブランコ、高く漕げたもんね」
「語彙力を伸ばそう!」と思うと、つい難しい言葉を教えたくなりますよね。でも、子どもが今使った言葉にひとつだけ情報をのせるほうが、会話としてずっと自然です。
③ 擬音語・擬態語(オノマトペ)をたくさん使う
「雨がザーザー降ってるね」
「ゼリー、ぷるぷる!」
「お布団ふかふかだね」
こうしたオノマトペは、幼児期にどんどん使いたい言葉です。
オノマトペの良いところは、感覚と言葉を結びつけやすいこと。「やわらかい」と説明されるより、「ふわふわだね」と言いながらタオルを触るほうが、子どもは実際の感覚と一緒に言葉を覚えやすくなります。
「おせんべい、パリパリするね」
「お湯がちゃぷちゃぷ」
「風がビュービュー吹いてる」
わざわざ教える時間を作らなくても、家の中や帰り道はオノマトペの材料だらけです。
④ 「どんな感じ?」「どう思った?」と会話を広げてみる
少し言葉が増えてきたら、子ども自身に言葉を探してもらう問いかけもしてみます。
たとえば、初めて食べるものを口にしたとき。「おいしい?」だけで終わらせず、「どんな味?甘い?すっぱい?」と聞いてみる。
公園の帰り道なら、「何が一番楽しかった?」「すべり台、どんな感じだった?」と具体的に聞いてみます。
ここで気をつけたいこと
質問攻めにしないことです。「なんで?」「どう思った?」「それで?」と連続で聞かれたら、大人でも疲れてしまいますよね。
子どもが「うーん」と詰まってしまったら、「速くてビューンって感じだった?」「ちょっと怖かったのかな」と、こちらから候補を出してあげてOK。
「自分で答えさせなきゃ」と力まず、言葉を知るきっかけになれば大成功です。
⑤ 実体験と「言葉」をセットにする
語彙を増やすうえで、私が一番大切だと思っているのがこれです。
たとえば「つるつる」という言葉。図鑑で「表面がなめらかな様子」と覚えるより、河原で丸い石を拾って「この石、つるつるしてる!」と触った経験のほうが、ずっと記憶に残ります。
日常で見つけられる「言葉」
- 雨上がりに長靴で歩いて、「地面がぬかるんでるね」
- 冬の朝に外へ出て、「空気が冷たくて、手がかじかむね」
- 料理をしながら、「玉ねぎがしんなりしてきたね」
見たもの・触ったもの・感じたことと言葉をセットにする。
特別なお出かけでなくても大丈夫です。お散歩や料理、洗濯物をたたむ日常の中にも、新しい言葉と出会えるチャンスはあふれています。
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「そんな言葉知ってたの?」わが家で感じた小さな変化
こうした言葉かけを続けていると、ある日突然、子どもの口から「えっ、そんな言葉知ってたの!?」と驚くようなフレーズが飛び出してくることがあります。
わが家でも、急に難しい言葉をしゃべり出したというよりは、日常の会話がちょっとずつ具体的になってきたなと感じる瞬間がありました。
以前なら、
「今日、幼稚園どうだった?」
「楽しかった!」
「何が楽しかったの?」
「……わかんない」
で終わっていたやりとり。
それでも根気強く、「何が楽しかった?」「悔しかったのかな?」「びっくりした?」と、気持ちや様子を表す言葉を会話に混ぜるようにしていたんです。
すると少しずつ、
「今日ね、〇〇ちゃんと遊べたから楽しかった」
「じゃんけんで負けたから、ちょっと悔しかった」
わが家の会話 Before → After
Before
「これ、やだ」
After
「これ、ベタベタするから嫌」
Before
「今日、寒かった」
After
「風がビュービューで、めっちゃ寒かった!」
こんなふうに、自分の感覚や理由を添えて話してくれるようになりました。
こうして書き出すと、本当に小さな変化ですよね。でも私は、この「ベタベタするから」「風がビュービューで」という自分の感覚を言葉にしようとする姿こそが、語彙力が育っているひとつの表れだなと感じています。
そしてもっと面白いのが、「あ、これ前に私が使った表現だ!」と気づく瞬間があることです。
その場では無反応に見えても、親が使った言葉を子どもはちゃんと耳で覚えていて、自分の中にストックしていたんですよね。
聞いて、体験して、また聞いて。
そうやって少しずつ言葉がたまり、
ある日ふっと「自分の言葉」として出てくる。
語彙力って、「今日教えたから明日すぐ使えるようになる」というものではありません。
そう考えると、語彙力を伸ばすために必要なのは「勉強させる時間」ではなく、日々のやりとりの中でいろいろな言葉に出会える環境なんだなと、つくづく感じています。
元国語教師の私でも失敗した「先回り」のクセ
ここまでいろいろ書いてきましたが、私自身、いつでもこんなふうに丁寧に言葉かけができているわけではありません。
むしろ国語教師だったからこそ、長男が小さかった頃は大失敗をしていました。それが、子どもの言葉を「先回り」してしまうクセです。
私がやってしまっていたこと
忙しい夕方、子どもが指をさして「あ!あ!」と言っていると、つい「はい牛乳ね」「お菓子ね」と、言葉を発する前に全部用意してしまっていました。
そうすると、子ども側も「言わなくても伝わる」となってしまい、言葉を使う機会をこちらが減らしてしまっていたのかもしれません。
さらに、言葉が出始めてからも失敗は続きます。
子どもが「今日ね、幼稚園でね……えっと……」と言葉を探して詰まっていると、早く知りたくて、
「〇〇ちゃんと遊んだの?」
「ううん、あのね……」
「あ、先生のお話?」
と、先回りして質問攻めにしてしまっていたんですよね。
あるとき、ハッと気づきました。
子どもが「えっと……」と止まっている時間は、ボーッとしているわけじゃない。頭の中にあるモヤモヤにぴったりの言葉を、一生懸命探している時間なんだと。
大人が先回りして答えを渡してしまうと、子どもが自分の力で「言葉を探すチャンス」を減らしてしまうことになります。
それに気づいてからは、指をさされても、言葉に詰まっても、一呼吸おいて「待つ時間」を作るようにしました。
そんなときは、ひと言だけ。
「うんうん、何かな?」
とはいえ、夕飯前のバタバタした時間に毎回じっくり待てるわけではありません。私だって「で、何だったの!?」と言ってしまう日は今でもあります(笑)。
だから「絶対に先回りしない!」と固く決めるのではなく、少し心に余裕があるときだけ、続きを待ってみる。
語彙力を育てるために本当に必要なのは、大人がたくさんの言葉を教え込むこと以上に、子ども自身が自分の言葉を探す「空白の時間」をちょっとだけ残してあげることなのかもしれません。
言葉を広げるのに頼りたい、絵本やツールの使い方
もちろん、親の言葉かけだけで頑張る必要はありません。絵本や図鑑、通信教育など、親子の会話を増やしてくれるツールにはどんどん頼っていきましょう。
「語彙力を伸ばすなら、やっぱり特別な知育絵本?」と思うかもしれませんが、難しく考えなくても大丈夫です。
一番おすすめなのは
子どもが何度も「読んで!」と持ってくる、お気に入りの絵本です。
何度も同じ本をリクエストされると、大人はつい「またこれ〜?」と思ってしまいますよね。
でも、子どもは繰り返し読んでもらう中で、少しずつ言葉を自分のものにしています。昨日までは聞いているだけだったフレーズを、ある日突然会話で使い始めることもあります。
絵本を読むときは、ページの文字を正しく最後まで読むことにとらわれなくても大丈夫。
「この動物、どんな顔してる?」
「あ、これ昨日食べたイチゴだね!」
そんなふうに途中で脱線しながら、絵を見つめて会話を広げる時間も、豊かな言葉体験になります。
同じように、写真図鑑やことば絵本、体験型教材(わが家ではZ会などを使っていました)も、会話のきっかけ作りにぴったりです。
公園で見つけた虫を図鑑で調べて「これ、本当に足がいっぱいあったね!」と確認したり、かるたで遊びながら「あ行」の音に触れたり。
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まとめ:毎日の会話の中に、ちょっとした工夫を
幼児期の語彙力は、机に向かって勉強させるものではなく、毎日の親子のやりとりの中で少しずつ育っていくものです。
今日から全部やらなくても大丈夫。
「今日は『これ』『それ』を使わずに話してみようかな」
「1回だけ言葉を+1して返してみようかな」
そんなリラックスした気持ちで、できそうなことをひとつだけ試してみてくださいね。
聞いて、話して、また聞いて。
毎日の小さな積み重ねが、
いつか子どもの豊かな言葉となって花開いていきます。


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